新派を代表する俳優、そしてジャズシンガーとしても活躍された二代目・水谷八重子さんが、先日、87歳で亡くなられました。
心よりご冥福をお祈りするとともに、今回はお母様の初代・水谷八重子についてひも解いてまいります。
昭和の名女優として知られる初代・水谷八重子には、若き日に生涯の当たり役となった作品がありました。
その一つが、中内蝶二作の『大尉の娘』です。
八重子は18歳のときに舞台で露子を演じ、その後、トーキー映画にも出演しました。
なぜ『大尉の娘』は、八重子の代表作の一つになったのでしょうか。
今回は、作品の誕生から映画化、そして「八重子十種」まで、その舞台裏をたどります。
水谷八重子(初代)が18歳で演じた『大尉の娘』とは?
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『大尉の娘』は、劇作家・中内蝶二が手がけた悲劇です。
1922年(大正11年)6月に明治座で初演され、井上正夫、花柳章太郎らによって好評を博しました。
翌1923年7月、浅草・御国座で初代水谷八重子が娘・露子を演じています。
当時の八重子は、まだ18歳という若さでした。
相手役の森田慎蔵を演じたのは井上正夫で、若き八重子と実力派俳優の組み合わせが観客の共感を呼びました。
劇団新派の公式資料でも、八重子の露子役は「重厚な演技」で知られるようになったとされています。
物語は、信州・木曽に近い村を舞台にした悲劇です。
露子は六松と恋仲になり、子どもまで授かりますが、二人は結ばれることができません。
やがて六松が別の女性と結婚することを知った露子は、婚礼の夜に火を放ってしまいます。
そして、父・慎蔵は娘が犯人だと悟り、娘に罪を償わせるという極限の悲劇へと進んでいきます。
この激しい感情を必要とする役柄が、八重子の演技力を世に知らしめることになりました。
水谷八重子(初代)が出演したトーキー版『大尉の娘』!
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舞台で人気を集めた『大尉の娘』は、その後、映画としても映像化されました。
なかでも注目したいのが、1929年(昭和4年)11月公開の『大尉の娘』です。
この作品は落合浪雄が監督を務め、出演者には水谷八重子、加藤精一、田辺若男らの名前が確認されています。
資料では「発声映画」として記録されており、無声映画から音のある映画へ移り変わっていた時代を象徴する作品の一つでした。
ただし、ここで「日本初のトーキー映画」と断定するには注意が必要です。
当時はすでに発声映画のさまざまな試みが行われており、1929年以前にも音声を取り入れた作品が存在しました。
それでも『大尉の娘』が興味深いのは、舞台で人気を得た水谷八重子が、映画という新しいメディアで同じ作品に出演していることです。
さらに1936年(昭和11年)にも『大尉の娘』は再映画化され、八重子も出演しています。
つまり、この作品は八重子の若き日の舞台だけでなく、映画女優としての活動ともつながっていたのです。
水谷八重子(初代)が『大尉の娘』を生涯の代表作に選んだ理由とは!
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『大尉の娘』が特別なのは、八重子が若い頃に演じた作品だったからだけではありません。
1973年(昭和48年)、初代八重子の舞台生活60年を記念して、本人が代表的な10作品を選定しました。
それが「八重子十種」です。
その中に『大尉の娘』も選ばれました。
八重子十種には『風流深川唄』『滝の白糸』『花の生涯』『十三夜』『鹿鳴館』『寺田屋お登勢』など、初代八重子を代表する作品が並びます。
その中でも『大尉の娘』は、18歳の八重子が若き日の代表的な役・露子を演じた原点ともいえる作品でした。
若い頃に演じた悲劇のヒロインが、半世紀後にも「自分の代表作」として選ばれたことからも、この作品が八重子の芸歴にどれほど大きな意味を持っていたのかが分かります。
『大尉の娘』は、単なる一作品ではありません。
初代水谷八重子の舞台人生と、日本映画が無声からトーキーへ移行していく時代が交差した作品だったのです。
まとめ
- 『大尉の娘』は中内蝶二作の悲劇で、1922年に明治座で初演されました。
- 初代水谷八重子は18歳だった1923年に露子役を初演し、代表的な当たり役としました。
- 1929年には発声映画として映画化され、水谷八重子も出演しました。
- 1936年にも再映画化され、八重子は再び『大尉の娘』に出演しています。
- 1973年には本人が選んだ「八重子十種」の一作に『大尉の娘』が選ばれました。
- 『大尉の娘』は、若き日の水谷八重子と日本初期トーキー映画の歴史を結びつける重要な作品だったのです。
▼二代目水谷八重子の訃報については以下↓の記事をご覧ください。
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